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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)85号 判決

原告

芦内里美

ほか一名

被告

橋野克司

ほか一名

主文

一  被告橋野克司は、原告芦内里美に対し、金二〇七万八九二〇円及び右内金一五九万六五〇〇円に対する平成三年一〇月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告橋野克司は、原告日動火災海上保険株式会社に対し、金一五九万六五〇〇円及びこれに対する平成二年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告橋野克司に対するその余の請求及び被告神戸観光バス株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告らと被告橋野克司との間に生じた分は これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を同被告の負担とし、原告らと被告神戸観光バス株式会社との間に生じた分はすべて原告らの負担とする。

五  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告芦内里美に対し、連帯して五六七万七八六〇円及びうち五一万七八六〇円に対する被告橋野克司につき平成三年一〇月一〇日から、被告神戸観光バス株式会社(被告会社)に対する同月五日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告日動火災海上保険株式会社(原告会社)に対し、連帯して三一九万三〇〇〇円及びこれに対する平成二年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により受傷した原告芦内が、被告橋野に対し民法七〇九条、自賠法三条により、被告会社に対し民法七〇九条、七一五条及び自賠法三条により損害賠償の請求を求め、また原告会社が被告芦内に対し本件事故により生じた損害を保険契約に基づき支払つたことにより、商法六六二条に基づき損害賠償請求権を代位取得したとして、その金員を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成二年一〇月一七日午後七時五分ころ

(二) 場所 神戸市北区唐櫃台四丁目三七番八号(県道唐櫃灘線)

(三) 被告車ら

(1) 被告橋野運転の普通乗用自動車(被告乗用車)

(2) 訴外竹澤幸男(竹澤)運転、被告会社所有の大型バス(被告バス)

(四) 原告車 原告芦内が所有、運転していた普通乗用自動車

(五) 事故態様

被告乗用車が本件事故現場を灘方面から唐櫃方面に進行中、反対車線に進入して、被告バスに衝突し、その直後被告バスと原告車とが衝突した。

2  責任原因

(一) 被告橋野は、本件事故当時、被告乗用車を所有し、運行の用に供していたものである。

(二) 被告会社は、本件事故当時、被告バスを所有し、運行の用に供していたものである。

また被告会社は、本件事故当時、被告バスを運転していた竹澤を雇用しており、本件事故は、同人が、被告会社の事業の執行中、発生した。

3  損害賠償債権の代位

原告会社は、平成二年一一月二〇日、本件事故により生じた原告車の修理費用三一九万三〇〇〇円につき、原告芦内との保険契約に基づき、同原告に対し、右全額を支払つた(甲A一一、甲B二、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  被告橋野の責任

被告橋野は、被告乗用車が被告バスに衝突した際、同バスは後退しておらず、原告芦内の前方不注視あるいは車間距離不足の過失により、原告車が被告バスに追突したもので、被告乗用車の右衝突と原告車の右追突との間には因果関係はなく、同被告には、責任がない旨主張する。

2  被告会社の責任

被告会社は、竹澤には、本件事故につき過失はなく、自賠法三条但書の免責の抗弁か成立する旨主張する。

3  過失相殺

4  原告らの損害

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲A二、一一、検甲一ないし四、乙三、丙四、証人秋本浩雅、同竹澤幸男、同橘田恒人、同中田隆及び同松田久美、原告芦内里美及び被告橋野克司各本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場の道路は、片側一車線(車道部分の幅員が東側部分か二・九メートル、西側部分が三・四五メートル)の南北に通じるアスフアルト舗装の道路であり、本件事故現場付近で多少湾曲しており、北から南に向けて約一二・二パーセントの上り勾配となつており、その最高速度は時速四〇キロメートルである。

(二) 被告橋野は、本件事故直前、被告乗用車を運転して時速四〇ないし五〇キロメートルの速度で本件事故現場付近道路を北進中、カーブを曲がり、本件衝突地点の約四二・四メートル手前の地点で、約三三・二メートル前方に停車中の先行車を見て、危険を感じてブレーキを踏んだところ、道路上に工事用の水が流れていたため、自車のブレーキがきかず、水で滑つて反対車線に進入し、自車を元に戻そうとしたが、前方から被告バスが進行して来ており、同車との正面衝突を避けるため、ハンドルを右に切り、自車を右に半回転させ、自車右後部を既に停車していた被告バスの前部中央付近に衝突させて停車した。

(三) 竹澤は、本件事故直前、被告バスを運転し、かなりの上り坂であつたため時速約二〇キロメートルの速度で本件事故現場付近道路を南進中、本件衝突地点の少し手前で、反対車線上の被告乗用車がスピンしながら自車線内に入つて来るのを見て、危険を感じ、フツトブレーキを踏んで直ちに停車し、サイドブレーキを引いた直後、被告乗用車が衝突し、その衝突により、右各ブレーキを離したり、解除したりはしなかつたが、被告バスは自然に非常に低速で約一・八メートル後退して停車した。同バスの衝突・後退後、停車の直前に原告車が同バスに追突した。

(四) 原告芦内は、本件事故直前、原告車を運転し、時速約二〇キロメートルの速度で先行の被告バスの約五、六メートルの後を追従して本件事故現場付近道路を南進中、本件衝突地点の少し手前で、被告バスのブレーキランプが点灯したため、ブレーキを踏んだが、被告バスが後退したこともあつて同バスに追突した。

右追突により、被告バスにはほとんど衝撃もなく、衝突痕跡もあまりないが、原告車の前部は大破し、外車であることもあつて多額(三一九万三〇〇〇円)の修理費用を要した。本件事故直後、被告バス及び原告車の進行車線は、路面が乾燥していたが、スリツプ痕跡はなかつた。

2  原告芦内は、本件衝突は、原告車の停車後、被告バスが後退して来て発生したものである旨主張し、証人秋本浩雅の証言及び原告芦内の供述中には、右にそう部分があるけれども、被告バスは被告乗用車との衝突により非常に低速で約一・八メートルしか後退していないのに、原告車の前部が大破しているとの前記認定に照らせば、原告車の進行中に被告バスに追突したとみるのが相当であり、右各部分を採用することはできない。

逆に被告らは、被告乗用車と被告バスとの衝突により、同バスは後退していない旨主張し、丙四の記載、同竹澤幸男及び同松田久美の各証言、被告橋野克司各本人の供述中には、右にそう部分があるけれども、本件事故直後、本件事故現場で竹澤及び原告芦内らから聴取した警察官橘田恒人作成の実況見分調書の記載(甲二)及び同人の証言に原告芦内の供述を加味すると、右各部分も採用できない。

3  右によれば、原告車の被告バスへの本件追突は、原告芦内の前方不注視及び車間距離の不足等により停車しきれなかつたことと、被告乗用車が同バスに衝突したことにより同バスが若干後退したことにより発生したものとみるのが相当である。したがつて、被告橋野の本件事故直前の反対車線への進入も本件事故の一因をなしているから、同被告に過失のあることが明らかである。

なお、仮に被告乗用車が被告バスに衝突したことにより同バスが後退していない場合、竹澤の無過失は明らかであるが、被告橋野の反対車線への進入による被告バスの急停車が、やはり原告車の同バスへの追突の一因をなしているといわざるをえないから、同被告には過失があるというべきである。

よつて、前記のとおり被告乗用車の運行供用車である被告橋野は、民法七〇九条及び自賠法三条により、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

二  争点2について

前記認定によれば、被告乗用車の衝突による被告バスの後退につき、竹澤に過失はなく、本件全証拠によつても、本件事故につき同人の過失を認めることはできないうえ、証拠(丙四、証人竹澤幸男及び同橋田洋一郎、弁論の全趣旨)によれば、被告バスには構造上の欠陥又は機能の障害はなく、被告会社は、竹澤をはじめ観光バスの運転者に対し、安全運転の一般的教育等を行い、健康診断を定期的に実施し、自動車の整備点検も尽くしているなど自動車の運行に関し注意を怠らなかつたと認められるから、被告会社の免責の抗弁は理由がある。

したがつて、被告会社は、本件事故による損害賠償の責任はない。

三  争点3について

前記認定によれば、原告芦内は、本件事故の際、被告バスとの車間距離を十分にとり、前方注視を十分に尽くしていれば、本件事故を避け得たか、損害を軽減できたと認められるから、同原告にも前方不注視及び車間距離不足の過失があり、その過失は重大であるといわざるをえない。

他方被告橋野は、路面が濡れていたとはいえ、反対車線に自車を進入させたものであるから、これまた重大な過失があるといわざるをえないところ、本件に現れた一切の事情を斟酌して右過失を対比すると、その割合は、同原告及び同被告とも五〇パーセントとみるのが相当である。

四  争点4について

1  原告芦内

(一) 治療費(請求額及び認容額) 二〇万七五八〇円

証拠(甲A四、五の各一、二、六ないし八、原告芦内本人)によれは、原告芦内は、本件事故により、頸部及び腰椎捻挫の傷害を受け、平成二年一一月二日から平成三年三月二〇日までの間に合計六三日間通院して治癒し、その間の治療費、診断書及び検査料等として合計二〇万七五八〇円を支払つたことか認められる。同原告の初診が本件事故後相当期間経過していること等も、同原告本人の供述等を加味して考察すると、右認定を左右するものではない。

したがつて、右は、本件の相当な損害として是認できる。

(二) 休業損害(請求額二五四万五八三〇円) 一六九万七二六〇円

証拠(甲A九の1、2、原告芦内本人、弁論の全趣旨)によれば、原告芦内は、古美術商として主に絵画の売買の仲介及び日用品や贈答品のカタログ販売を経営しており、平成二年分の年間所得金額の申告額が一四七五万円であることが認められる。

右に前記の原告芦内の治療経過、仕事内容、地位、収入金額等を総合して考察すると、同原告は、右治療を受けた六三日間以外にもその仕事に支障を受けたことがうかがわれるが、それを考慮しても、同原告の右六三日間の治療日数のすべてにつき、休業損害が発生したとみるのは相当ではなく、その三分の二程度につき損害が発生したとみるのが相当である。

すると、同原告の休業損害は、次の計算式のとおり一六九万七二六〇円となる(円未満切捨)。

計算式

14750000÷365×63÷3×2=1697260

(三) 慰謝料(請求及び認容額・五七万三〇〇〇円)

原告芦内の受傷の内容、程度、通院期間、仕事の支障の程度その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、同原告が本件事故によつて受けた精神的慰謝料は、同原告の請求どおり五七万三〇〇〇万円をもつて相当とする。

(四) 代車料(請求額・一〇三万円) 五〇万円

証拠(甲A一二の1、2、原告芦内本人)によれば、原告芦内は、本件事故による原告車の損壊の修理の期間中の二〇日間、ロイヤルオートの所有する普通乗用自動車(ベンツ・五〇〇SL)を賃借し、その代価として一〇三万円を支払つたことが認められる。

しかしなから、国産車の最高級車の一日当たりの代車料が少なくとも一日当たり二万五〇〇〇円を越えることのないことは、顕著な事実であるから、原告芦内の右支払をそのまま相当な損害として認めることはできず、その他諸般の事情を考慮をうえ、一日当たり二万五〇〇〇円で合計五〇万円を相当な代車料として認めることとする。

(五) 格落損(請求額・九三万円) 八〇万円

証拠(甲A一三の1、原告芦内本人、弁論の全趣旨)によれば、原告芦内は、平成元年九、一〇月ころ、新車である原告車を一四〇〇万ないし一五〇〇万円で購入し、本件事故後の平成三年に七五〇万ないし七八〇万円で売却したこと、日本査定協会登録査定士浅井吉夫は、原告車の格落ち損につき、原告車の修理代金の三割である九三万円であるとしていることが認められる。

右認定に原告車の車種その他の一切の事情を考慮すると、原告車の格落損は八〇万円は下らないというべきで、同金額が相当な損害と認められる。

2  原告会社(請求及び認容額・三一九万三〇〇〇円)

前記のとおり原告会社が原告芦内に支払つた三一九万三〇〇〇円は、本件損害として是認できる。

3  過失相殺

前記のとおり、原告芦内の損害は合計三七七万七八四〇円で、原告会社の損害は三一九万三〇〇〇円であるところ、前記の五割の過失相殺をそれぞれすると、原告芦内につき一八八万八九二〇円、原告会社につき一五九万六五〇〇円となる。

4  弁護士費用(原告芦内のみ、請求額・五六万円) 一九万円

本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情に照らすと、原告芦内につき本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、一九万円が相当と認められる。

三  結論

以上によると、原告芦内の請求は被告橋野に対し、二〇七万八九二〇円及びうち一八八万八九二〇円に対する本訴状送達の日である平成三年一〇月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告会社の請求は被告橋野に対し、一五九万六五〇〇円及びこれに対する原告芦内に支払つた日である平成二年一一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告らの被告橋野に対するその余の請求及び被告会社に対する各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田勝年)

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